国際都市としての「つくばサイエンスシティ」
つくば市国際戦略総合特区推進部 部長 梅原弘史さん
(2013年11月25日にラヂオつくばで放送した内容をもとにした記事です)
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「サイエンスシティつくば」
現状、海外の科学都市から学ぶこと。
これからの“つくば”の街づくり
Q今年で筑波研究学園都市50周年ですが、現在のつくばはどんな段階であると考えていますか?
一言で言えばつくばというのは重要な変化を迫られている時期だと感じています。“つくば”をつくった頃というのは、世界に先駆けた科学技術の夢の都市だったわけです。もちろんその中でいろんな研究成果も生まれてきたのですが、一方で“研究成果の産業応用”という面では世界のいろんな都市がつくばの良いところや悪いところを研究して、後発の海外の都市がどんどん成果をだしています。
Q後発の都市が後追いで発展しているということを挙げられていましたが、梅原さんは海外の科学技術都市にも視察に行かれていると伺いました。フランスのグルノーブル市、アメリカのアーバイン市、そして最近では韓国のテジョン市を訪問されたということです。フランスとアメリカではハイレベルフォーラム、韓国では国際ナノテク産業都市フォーラムに出席されています。こうした他の科学技術都市と比較してみたときにつくばというのはどういった特徴があるとお考えでしょうか?
ハイレベルフォーラムというものは科学技術都市のいわゆる中心メンバーが集まるものです。国際産業フォーラムというのは今年11月に初めて韓国のテジョン市で開催されました。両方のフォーラムに共通しているのは、メインテーマが“イノベーションエコシステム”というものをいかに育んでいくかということです。“イノベーションエコシステム”というのは、今や研究というものは研究所だけではできなくて、政府や研究機関、企業、自治体なんかも含めて、それが生態系のようにそれぞれが役割を果たしながらやっていかないと、イノベーションが創出されない。それに向けて積極的にやっている。その観点で言うならば、海外の都市はハード面もソフト面も頑張って造りこんできているけれども、つくばというところはまだまだそれぞれいろんなプレイヤーが有機的に結び合ってどんどんイノベーションを創出しているというような段階ではない。まだまだこれから海外の良いところを学びながらやっていかなければいけないと考えています。特に先ほど姉妹都市を結んだグルノーブル市は非常に参考になる点も多いので、学んでいかなければいけないと考えています。
Q“イノベーションエコシステム”というのはいわゆる日本で言う産学官連携の考え方とはまた違った考え方なのでしょうか?
近い考え方ではありますが、単に連携するというよりは、それぞれの生態系がもっと深く関わる、というものを意味している思います。特に産学官連携というと、 “地域“というのが見えにくい場合があります。 “イノベーションエコシステム”は地域の役割が非常に大きい。例えば外国から人とか物とか情報がやってくるためには、地域の生活環境が整っていなければいけない。その地域が投資をするのに非常に魅力的でないといけない。そういうことも含めて政治や行政だとかの役割も大きいということでしょうね。
Q先ほどグルノーブル市だとお手本にするような面も多いとおっしゃっていましたが、具体的にどういった面が参考になると思われましたか?
ハード面では、グルノーブル市というのは産業界と研究所の方々、大学の学生さんが同じ建物に入って研究できて、いつでも自然と出会って話しができるような環境が造り込まれている。つくばでは、まだまだそれぞれの距離は離れているし、それぞれが日常的に研究者の方々が出会うような機会もそう多くはないので、それをいかに造り上げていくかというのがこれからの課題だなと考えています。
Qここまでフランスのグルノーブル市とそれに比較してみたときのつくばに関して伺ってきましたが、最近行かれたのがお隣の韓国、テジョン市というところですよね。テジョン市という街についてはどういった印象を持たれましたか?
韓国のテジョン市は、市役所の方々がつくばをモデルに造ったと明確に言っていました。“街づくり“という面ではつくばの良いところも悪いところも研究されていて、より機能的だと感じました。何より良いなと思ったのは、テジョン市は150万の都市ですので、街自体に活気があるし、ビジネス環境もあって、いろんなものがうまく回っている。数年後には韓国の政府機関が全部テジョン近郊に移転してきますので、それでまた新しい発展があるなという予感がしました。
Qつくばでよく言われるのが、弱みとして研究機関の間や組織間での繋がりが希薄である、というお話をよく伺います。その原因というのは何だと思いますか?
もともとのつくばの設計思想は、“自由で独創的な基礎研究や教育を育む”というものです。それぞれの組織や機関が近くにいるというよりは、みんなが落ち着いて研究できる環境に造りこまれています。そういった中で、グルノーブル市のように自然と連携というのを個々人に任せるというのは非常に難しい状況だと考えています。その連携のためには、ハード・ソフトの両方のシステムをしっかり造りこんでいかないといけない。ハード面では最近ナノテク分野の“つくばイノベーションアリーナ”ですとか、先進的な取り組みが始まっています。しっかりやっていって、世界的に魅力ある拠点をつくっていきたいなと思います。ソフト面ではつくば市の科学技術振興課では、とにかくミツバチのようにいろんなところへ御用聞きに伺っていて、その中から様々な連携の話が生まれたり、またこの街の欠点が見えてきたりということに繋がります。また、つくばは国策でつくられた街ですので、科学技術振興課の役割として国の科学技術の司令塔としっかり連携しながらやっていかなければいけない。
Qそうしたつくば内の研究機関、国と連携して取り組んでいる事業の一つがつくば国際戦略総合特区ですよね。今後つくば国際戦略総合特区ではどのような展開を見据えていますか?
つくば国際戦略総合特区のメリットでありデメリットであると思うんですが、研究サイドの色彩の強いプロジェクトだと考えています。それは、非常に最先端ではあるんですが、生活者の目線からみて親しみやすいものか、というのはしっかり考えていかなければいけない。ビジネスをされている方や、例えば介護ロボットであれば介護の現場の方、そういう利用者の目線で事業をしっかり組み立てていくというのが今後の課題です。そういった方々に魅力的に思っていただき実際に使っていただく、そして投資していただいて、という状況になれば今後どんどん取り組みが加速していくと考えています。