そーなんだ!藻類研究最前線
筑波大学 渡邊信さん
筑波大学 藻類産業創成コンソーシアム理事長 井上勲さん
(2013年12月16日にラヂオつくばで放送した内容をもとにした記事です)
石油代価恵燃料として期待される藻類オイルは、食糧と競合せず、高い生産能力を有するバイオマスとして注目されている。藻類オイルの大量生産技術を確立し、世界的エネルギー問題の解決に貢献するとともに、健康食品や化粧品、医薬品など、藻類が有する様々な機能を応用した藻類産業の創出を目指している。このプロジェクトに関して海外での動向、国内でのユニークな取り組みを研究者の方に伺った。
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Q渡邉先生が藻類の生産する油に注目したのはなぜでしょうか?
石油資源が枯渇するということで、2004年や2005年ごろに石油の価格がものすごく高くなったんです。石油は非常に重要な資源なので、何らかの形で代替資源を確保しなくてはいけないという世界的な問題がでてきたわけです。これまで陸上植物からオイルを採るということをやっていましたが、それだと食糧問題とぶつかってします。生産に耕作地を必要とせず食糧問題にも競合しない藻類を対象にすべきだという世界的なうねりが出ました。日本は遅れていましたが、先導をきってやらなくちゃいけないと始めたのが私たちの研究だったわけです。
Qつくば国際戦略総合特区の事業として、市内の休耕地を利用した屋外実証実験場を整備し、本格的に始動しつつあると伺いました。この屋外の実証実験で期待される成果は、これまでと比べていかがでしょうか?
これまでの研究成果は実験室レベルの小規模での実験です。商業化するには大きなスケールで、光は人工光ではなく太陽光を利用するやり方をしないといけないわけです。実験室規模のものから野外に出たときに、今までの実験データが使えるのか、野外でどう違ってくるのかというのを検証する実験施設です。
Q東北復興プロジェクトとして仙台で行われているプロジェクトというのは下水処理所を利用しているとうかがいました、藻類のオイルの生産と下水処理というのはどういった関係がありますか?
仙台の場合は、下水処理プロセスと藻類のバイオマス生産を上手に統合していこうというのが目的です。藻類で光合成をするといっても水と光と二酸化炭素だけではなく、そこに窒素、リン、カリが必要です。下水には窒素、リン、カリがいっぱい含まれています。私たちは下水を汚いといいますけど、藻類にとってはこんなにおいしい食べ物がいっぱい入っている水はないわけです。実際に下水を使って藻類を増やすと非常によく増えます。そして下水をきれいにする。つまり、私たちからマイナスと思っているものをゼロにするためにすでにお金とエネルギーをかけていますが、そこに藻類生産を上手にのせることができれば、ほんの少しコストを足すだけでできるわけです。そうすると、藻類の生産コストはぐっと下がる可能性もある。そういう意味で、仙台で行う下水道処理と藻類の生産を統合するという試みは、藻類からでるオイルのコストをぐっと下げていくために非常に重要な技術開発になります。
Qもう一つ福島で行われている試みというのも、東北復興プロジェクトとうかがいましたがどういった内容ですか?
検討している南相馬市は、津波にあった一連の水田が広がっています。ここを私たちは耕作断念地と呼んでいますが、耕作を放棄するというよりも断念せざるを得ない。そこで、福島の土着の藻類を二酸化炭素と栄養を与えることによって増やして、増えたバイオマスをいろんな燃料に使っていこうというプロジェクトです。特定の藻類だといろんな環境設定をしなければいけませんが、土着藻類はその季節にあったものが入ってきますので環境の制御は必要ないです。その分コストがぐんと下がります。海外では、福島と近い気象のニュージーランドのクライストチャーチで行われていて、年間でヘクタールあたり60トンもの藻類バイオマスを生産しているという実績があります。そして得たバイオマスを震災復興のために活用していくことができる可能性があり、それを狙った新しいプロジェクトです。
Qつくば、仙台、福島での3つの取り組みを展開されていますが、その3つの取り組みの相乗効果といいますか、どういった展開が考えられますか?
つくば国際戦略でやっています農地を利用した大規模スケールの大量生産技術は仙台、福島に適用されていくと思います。そして仙台で下水と藻類の統合技術が開発されたら、それがまたつくばにもフィードバックされます。農地の利用と下水をどう統合するか、という非常に難問です。
福島の場合は、地元の藻類ですからその中でどんなすごい藻類が出てくるか分からない。福島がうまくいけば、同じような手法がつくばや仙台でも展開される可能性があります。このように、でてきた成果がお互いに使われ始めて、全体として素晴らしい技術が日本にできあがってくるということになるんじゃないかと思います。
それぞれのプロジェクトでかなり特徴的なことをされていますけども、それが相乗効果でより藻類バイオマスの開発に拍車をかけてスピード感をもって産業化につながりそうだなと思いました。
続いて、筑波大学 生命環境系 教授で、藻類産業創成コンソーシアム理事長の井上勲(いのうえ・いさお)先生にお話を伺います。
Q今年の9月に藻類バイオマスの国際シンポジウムが行われました。海外では藻類バイオマスの開発はどのように行われていますか?
アメリカを筆頭にヨーロッパ、韓国、中国、タイ、オーストラリア、各国で藻類バイオマスの研究開発というのがさかんに取り組まれています。全世界的な研究開発の競争が進んでいるという状況です。
アメリカでは1990年代に藻類バイオマスに関係する政府機関、それからアカデミア、大学研究機関、それから企業、いわゆるステークホルダーと呼ばれている人たちが全員集まって、これを2年かけてどういうふうに研究開発を進めていくかというようなワークショップを開いた、ということです。それに基づいてオールアメリカの体制で研究開発が進んでいる。したがって、無駄がなくて非常に計画的にゴールにステップを踏みながら向かっているということだと思います。
Qそういったアメリカや各国の情勢に対して、日本の現状と比較したときにどういった課題がみえますか?
日本は国としてのロードマップが描けていなくて、バラバラです。進んでいるプロジェクトはお互いに全く関係がない。それぞれのプロジェクトは非常に素晴らしくてよい結果がでてきますが、それを全部まとめても一つの矢にはならない。小さな弾をいっぱいうっている感じです。
Q井上先生が理事長を務めていらっしゃいます藻類産業創成コンソーシアムというのは研究者の方や企業の方が80以上の団体で作られている組織ですね。そのコンソーシアムがこの度アメリカの団体ABOと提携が決まったということで今後そういった海外の団体と提携することでどういった展開が期待されますか?
アメリカではあらゆる関係者が集まってロードマップを描いて研究開発を進めていますので、それが日本にとって大事なお手本になると思っています。コンソーシアムはそういう目的で作ったので、ぜひABOのやり方を日本に導入して、同時に日米のアカデミア同士の交流、企業同士、一番は政府関係者同士の交流を進めていきたいと思っています。藻類バイオマスの開発というのは、一つの国にとどまるものではなく人類全体のエネルギー問題や食糧問題という極めて大きな課題への挑戦です。個人的にはあまり国にこだわることではないと思います。アメリカとは一番近い国でもありますし、お互いないものを持っているという点もたくさんありますので、そこをうまく融合させてより早くゴールに近づいていくというような役割りが果たせていけばいいと思っています。
Q競争関係ではなく協力関係として、より切磋琢磨してということですか?
競争しながら協力するということです。アメリカはオバマ大統領が第2期就任演説で、“アメリカは絶対負けない”と宣言しました。2016年には太平洋に展開しているすべての船と飛行機の燃料の50%をバイオマスに代えます。藻類だけではなくすべてのバイオマスが含まれますけど、再生可能なオイルに代えると宣言しました。これはものすごく膨大な量のオイルですから、実現されると日本は完全に市場を奪われると思います。
Q藻類の可能性というのはどのくらい期待されているんですか?
僕は藻類オタクです。今の地球環境を作ったのは藻類です。生物が陸上に上がれるような環境も酸素21%の大気を作り出したのも藻類です。石油というのは、基本的に藻類起源です。中東の石油は一億年ほど前の低チス海で藻類が繁殖をして分解されないで沈んだものです。今使っている石油の60%が中東のものですから、それ以外のところも藻類が石油を作ったということでいうと、藻類が現代文明を支えているということです。エネルギーが枯渇すると、将来は藻類ベースのエネルギー生産、あるいは化学繊維のような化学製品も石油で作っているのでそれを代えていかなければいけない。そういう意味で、藻類を基盤とした社会が必然だろうと思っています。
私自身藻類バイオマスと聞くと新しいものではないかと思っていたんですが、実は太古の昔から人間の生活や環境には欠かせないもので、それが今注目されて産業に発展するというのは当たり前のことであるし、期待もできるし今後どんな展開ができるかというのはすごく楽しみだなと思いました。