核医学検査薬の国産化プロジェクト
日本原子力研究開発機構 大洗研究開発センター 照射試験炉センター
荒木政則さん 土谷邦彦さん 大岡誠さん
(2013年12月23日にラヂオつくばで放送した内容をもとにした記事です)
JMTR(日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターの材料試験炉)を利用してウランを原材料とせず、モリブデンからテクネチウムを製造する国産化技術を確立し、医療産業の国際競争力強化を目指す。
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Q核医学検査とはどんな検査ですか?
核医学検査というのは、例えば癌などの疾患はある種のタンパク質などを取り込みやすい性質を持っています。この性質を利用して、その特定のタンパク質にテクネチウムなどの放射性同位元素(RI)をくっつけて、人体に注射等なので投入します。すると、ガンなどの疾患に放射性医薬品のくっついたタンパク質が集中的に蓄積しますので、放射性同位元素から発生する放射線を専用カメラで検知して画像化することにより、疾病の検査を行うものです。
この中で、テクネチウム製剤(99Moが親核種)はもっとも利用の多く使われる放射性医薬品で、主に骨がんや脳、血管など血栓箇所の同定などに用いられ、PETやCT, MRI等他の検査法では得られない情報が精度良く得られることから広く利用されています。
Qテクネチウムは、年間にどれくらいの人数の患者さんの検査に用いられていますか?
テクネチウムの核医学検査薬は、主に腫瘍の転移や再発、梗塞など、骨や脳・心筋の血流状況等の検査に用いられています。
テクネチウムを用いた核医学検査薬の主な検査領域としては、2012年実績では、骨の検査で約42万件です。これは全体の約40%です。 脳・脊髄の検査で約10万件、これは全体の約9%、心臓・血管の検査で約9万件、これは全体の約8%などとなっています。 今ご紹介した情報は2013年のRADIOISOTOPESという公開データから引用しています。
Qテクネチウムはどのように製造されますか?
テクネチウムは半減期(寿命)が6時間の核種です。その親核種であるモリブデン—99(99Mo)というものでそれを抽出してテクネチウムを製造します。このため、モリブデン(99Mo)を定常的に供給できることが必要となります。
モリブデン(99Mo)の製造は、主にウランの核分裂(核分裂法)やモリブデン元素と中性子の核反応(中性子放射化法)の2つの方法で作ります。現在、実用化されている製造方法は試験研究炉を用いた核分裂、ウランを用いた核分裂法で、全モリブデン製造量の95%を製造しています。今のところこの二つの製造方法は、1980年代前半から検討が進められています。
高濃縮ウランを用いて製造を行っていて、たくさんの99Moを製造することができます。その反面、たくさんの放射性廃棄物もでてきますので、廃棄物処理や核不拡散の観点から取り扱いが複雑という欠点もあります。
一方で、モリブデン元素から作るという方法は、モリブデンにあるモリブデン98という同位元素に、中性子を当ててモリブデンを作る方法です。 ウランを使わない製造方法なので、放射性廃棄物も非常に少なく、核不拡散の問題も考える必要はありません。一方でこの方法では、ウランと比較して99Moの製造量が少ないという欠点がありますので、実用化に向けた技術開発はこのような製造量の観点で必要となってきます。
Q技術的に詳しいお話をいただきましたが、少し難しいお話しなのでもう少し簡単に教えていただくことはできますか?
今二つの方法があると言いましたが、核分裂法と放射化法という二つの方法です。核分裂法というのは、ウランを分裂させてそこから出てくるモリブデンを選択的に抽出してそれを利用する方法。もう一つの放射化法というのは、モリブデンそのものに中性子を一個加えます。従いまして、後者の場合というのは核分裂しませんのでそういう放射線物質、プルトニウムなどは出てきません。廃棄物に関しても優しい方法であるということです。
Q現在は、核医学検査に用いるテクネチウム製剤の原料となるモリブデンは、100%海外からの輸入に依存しているようですが、海外からの輸入に頼ることのデメリットがあれば教えていただけますか?
日本は、米国、欧州に次いで世界第3位の消費国になっています。全量100%を外国からの輸入に依存しています。
実は、原料のモリブデンは諸外国から航空機により輸送されています。そのために、このような輸送(空輸、陸送)の不具合が生じると供給不足が生じるということになります。
一方、99Mo製造は海外の研究炉を利用しています。ただしこちらはかなり老朽化しているということもございます。今後の安定供給を実現する方策を考える必要があります。
Q海外からの輸入に頼りなおかつ半減期のあるモリブデンを原材料とする点で、テクネチウムは取り扱いの難しい薬剤のように感じますが、代替検査法はないのでしょうか。
テクネチウムを用いない検査方法としては、PETやCT, MRI等の検査法が最近用いられています。しかしながら、診断箇所によってはこれらの検査方法では対応出来ません。例えばPETではブドウ糖に検査薬である放射性物質をくっつけて出しますが、ブドウ糖は脳だとか血液・血管等に必ず蓄積します。従ってそういうところの検査には適用できないというようなデメリットがありますので、脳だとか脊髄・心臓・血管などはテクネチウムに頼るしかないことになります。
Q国産化に向けた開発の課題はあるのでしょうか?
ウランを用いない99Mo製造技術の確立のため、以下の4つの技術課題を挙げています。
一つ目は、照射ターゲットの製造技術開発。二つ目はモリブデンとテクネチウムを分離・抽出・濃縮する技術開発。3番目に、モリブデン98というのが重要なモリブデン元素になるんですけど、それを有効利用するためのリサイクルの技術開発。最後に取り出したテクネチウムを製剤化に向けた品質検査の技術開発。
この4つを中心に行っていこうと考えています。基本的には基礎試験はほぼ確立してありますが、これから国産化に向けた技術開発では、テクネチウムやモリブデンの取扱量が高い物の開発が必要となりますのでそれを課題として進めていこうと考えています。
Q特区事業として認定されたことにより、研究が加速される可能性はありますか?
規制、税制、財政、金融等の面で総合的に支援を受けることが可能となります。また、外部資金の獲得を前提に、県と密接な議論を進め、必要な予算確保を実現し、前述した研究開発課題を産学官連携の下に、実施体制が充実し、研究が加速されるということが期待されています。